1 はじめに
使用者が就業規則を変更することにより、労働条件を労働者の不利益変更した場合には、最高裁判所の裁判例では、一定の要件のもと、労働契約の内容である労働条件は、変更後の就業規則の定めるところにより規律されることが認められています。
2 問題の所在
労働契約法第8条は、労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる旨規定しています。
労働契約法第9条は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。」旨規定しています。
それでは、就業規則に定められている労働条件を労働者の不利益に変更し、労働者の同意がある場合、労働条件を労働者の不利益に変更することができるのでしょうか。労働者の同意があっても、就業規則変更の合理性が必要になるのでしょうか。
3 最高裁判所の裁判例
最高裁判所は、「労働契約の内容である労働条件は、労働者と使用者との個別の合意によって変更することができるものであり、このことは、就業規則に定められている労働条件を労働者の不利益に変更する場合であっても、その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き、異なるものではないと解される(労働契約法8条、9条本文参照)。
もっとも、使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである。
そうすると、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である。」旨判示しています。
4 まとめ
最高裁判所は、労働者と使用者の間の個別の合意によって、就業規則における労働条件を労働者にとって不利益に変更しうるという立場を示しました(ただし、実際に就業規則の変更等が必要です)。
もっとも、労働者の同意の認定は、単に同意すればよいのではなく、上記のように、慎重に判断がされます。
使用者側の労働問題について、分からないことがありましたら、弁護士までご相談ください。