表見代表取締役の制度の意義
社長という肩書きを使用する者が、実際には、代表取締役でない場合、本来であれば、株式会社を代表する権限がないので、取引の効果は、当該株式会社に帰属しないことが原則です。
もっとも、取引の相手方は、そのような肩書きを使っている以上、株式会社を代表する権限があると考えて取り引きすることが通常です。
そこで、株式会社と取引をする者が、そのような肩書きを信頼して取引をした場合には、取引の安全を図り、その取引を有効とすることが、表見代表取締役の制度です。
表見代表取締役の規定が適用されるための要件
表見代表取締役の規定が適用されるためには、
①社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有する者と認められる名称が使用されることが必要になります。
最高裁判所の裁判例には、代表取締役職務代行者という名称が会社を代表する権限を有するものと認めるべき名称に該当する旨判断したものがあります。
②①の名称を使用することを会社が認めていることが必要になります。
③第三者が善意、無重過失であることが必要になります。
善意とは、知らないことを意味します。
法文上は、善意のみ要求されていますが、最高裁判所は、第三者に重大な過失があるときは、株式会社は、その責任を免れる旨判示しています。
④表見代表取締役となる者が、取締役であることが必要になります。
法文上は、取締役であることが要求されていますが、最高裁判所は、使用人(従業員)が常務取締役の名称を使用した事案について、表見代表取締役の規定が類推適用される旨判示しています。
問題の所在
会社法第354条は、第三者の主観的要件について、「善意」としか定めていません。
それでは、第三者に過失があった場合も保護されるのでしょうか。
なお、登記を確認すれば、取締役に代表権があるか否かは、確認することができます。
最高裁判所の裁判例
最高裁判所は、「商法262条に基づく会社の責任は、善意の第三者に対するものであって、その第三者が善意である限り、たとえ過失がある場合においても、会社は同条の責任を免れえないものであるが・・・、同条は第三者の正当な信頼を保護しようとするものであるから、代表権の欠缺を知らないことにつき第三者に重大な過失があるときは、悪意の場合と同視し、会社はその責任を免れるものと解するのが相当である。」旨判示しています。
まとめ
最高裁判所は、会社法第354条の第三者が保護されるための要件として、第三者に善意、無重過失が必要と判断しています。
実務上は、取引の相手方である株式会社の取締役の代表権について、疑う事情がある場合には、登記を確認するなどして、慎重に対応する必要があると思います。