1 はじめに
パワハラ(パワーハラスメント)をする社員を解雇することはできるのでしょうか?
パワハラをする社員をそのまま放置してしまうと、被害に遭った方に深刻な苦痛を与える可能性があり、また、他の従業員の士気にも影響することが考えられます。
一方、解雇は従業員にとって大きな不利益を伴う処分です。 そのため、パワハラがあった場合であっても、解雇が常に有効と認められるとは限りません。
なお、個別の事案については、弁護士にご相談ください。
2 パワハラが起こる前の対応
(1) パワハラ防止規定
労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)第30条の2第3項に基づく厚生労働省の指針では、パワハラについて次のように定義されています。
パワハラとは、職場において行われる、
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの であり、
①から③までの要素を全て満たすものをいいます。
パワハラの類型としては、以下のものがあげられています。
① 身体的な攻撃(暴行、傷害など)
② 精神的な攻撃(脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など)
③ 人間関係からの切り離し(隔離、仲間外し、無視など)
④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
⑤ 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
事業主は、この指針の内容に沿った社内体制を構築する必要があります。 (ここでは、この指針に関する詳細な説明は省略します。)
(2) 就業規則の整備
パワハラが発生した際に十分に対応できるよう、就業規則を整備しておくことが重要です。
パワハラの禁止について、明確な規定を設けることが求められます。
また、パワハラに該当する行為をした場合、懲戒処分の対象となる旨を規定することも必要です。
懲戒処分の手続きや内容なども具体的に規定する必要があるでしょう。
厚生労働省のモデル就業規則では、パワーハラスメントの禁止規定が定められており、懲戒事由として、パワーハラスメントの禁止規定に違反したことが挙げられています。
3 パワハラが発生したときの法律関係
(1) 被害者と加害者の関係
被害者は、加害者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をする可能性があります。 また、パワハラの内容によっては、暴行罪や脅迫罪などの刑事事件に該当する可能性もあります。
(2) 被害者と会社の関係
パワハラの行われた状況等によっては、被害者は、会社に対し、使用者責任や安全配慮義務違反を理由として損害賠償請求をする可能性があります。
(3) 会社と加害者の関係
会社は、加害者に対して、配置転換や懲戒処分などを検討することになります。
4 懲戒処分、解雇について
(1) 隔離等
被害が継続しないよう、まずは応急措置を検討します。 具体的には、被害者と加害者を早急に隔離することを検討します。 その際、被害者にとって不利益な配置転換にならないよう配慮が必要です。
(2) 事実の調査、証拠の収集
パワハラの被害申告があった場合、加害者とされた方や周囲の方に聞き取りをするなどして、客観的な事実を調査し、証拠を収集します。
(3) プライバシーの保護への配慮
調査の過程では、被害者や関係者のプライバシー保護に十分配慮することが不可欠です。
(4) 方針の決定
事実調査の結果を踏まえ、会社としての方針を決定します。
(5) 就業規則に基づく手続き
懲戒処分を行う場合であっても、加害者とされた方に弁明の機会を設けるなど、就業規則に定められた適正な手続きに基づいて処分を行う必要があります。 懲戒処分を行うにあたっては、パワハラ行為の内容・程度と処分内容のバランス(懲戒処分の相当性)などを慎重に考慮する必要があります。
5 就業規則に基づく懲戒処分
パワハラの事実があったからといって、直ちに解雇ができるわけではありません。 パワハラの内容と懲戒処分のバランスが重要です。 また、パワハラの内容が解雇に相当するものであったとしても、加害者に弁明の機会を与えるなど、適正な手続きを行うことが不可欠です。
パワハラの内容、経緯、被害の程度、加害者の反省状況その他諸般の事情を総合的に考慮し、適正な手続きを経た上で、相当な懲戒処分を決定することが重要です。
6 まとめ
パワハラを行った従業員に対し、懲戒処分をお考えの場合には、具体的な状況に応じた適切な対応が必要となりますので、一度弁護士にご相談いただくことをお勧めします。