取締役の責任の範囲と株主代表訴訟

1 はじめに

  会社法847条1項は、株主による責任追及等の訴えについて規定しています。

  それでは、株主代表訴訟によって追及することができる取締役の責任の範囲は、どの範囲になるのでしょうか。

2 問題の所在

  会社法847条1項は、発起人等の責任を追及する訴えについて規定していますが、どのような責任が訴えの対象となるかについて、明確に規定していないので、問題になります。

  株主代表訴訟について規定した平成17年改正前商法267条の「取締役ノ責任」について、最高裁判所の裁判例があります。

3 裁判例

  最高裁判所は、「商法267条所定の株主代表訴訟の制度は、取締役が会社に対して責任を負う場合、役員相互間の特殊な関係から会社による取締役の責任追及が行われないおそれがあるので、会社や株主の利益を保護するため、会社が取締役の責任追及の訴えを提起しないときは、株主が同訴えを提起することができることとしたものと解される。そして、会社が取締役の責任追及をけ怠するおそれがあるのは、取締役の地位に基づく責任が追及される場合に限られないこと、同法266条1項3号は、取締役が会社を代表して他の取締役に金銭を貸し付け、その弁済がされないときは、会社を代表した取締役が会社に対し連帯して責任を負う旨定めているところ、株主代表訴訟の対象が取締役の地位に基づく責任に限られるとすると、会社を代表した取締役の責任は株主代表訴訟の対象となるが、同取締役の責任よりも重いというべき貸付けを受けた取締役の取引上の債務についての責任は株主代表訴訟の対象とならないことになり、均衡を欠くこと、取締役は、このような会社との取引によって負担することになった債務(以下「取締役の会社に対する取引債務」という。)についても、会社に対して忠実に履行すべき義務を負うと解されることなどにかんがみると、同法267条1項にいう「取締役ノ責任」には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。」旨判示しています。

4 まとめ

  最高裁判所は、取締役の会社に対する取引債務についての責任も株主代表訴訟の対象となると判断しています。

  取締役の会社に対する取引債務は、当然ですが、約定どおり履行すべきものであり、適正な会社経営を実践することが重要であると思います。

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