1 はじめに
従業員を解雇する場合には、慎重に検討をしたうえで、手続をする必要があると思います。
解雇された従業員が、解雇の効力を争う場合、労働審判の申し立てをしたり、訴訟を提起することが考えられます。
使用者にとって、解雇が無効になるリスクを減らすためには、どのようなことに留意したらよいのでしょうか。
2 解雇について
民法627条1項は、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。」旨規定しています。
労働基準法第20条1項は、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。」旨規定しています。
最高裁判所の裁判例において、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである」旨判示したものがあります。
労働契約法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」旨規定しています。
したがって、使用者が、労働者を解雇するには、上記裁判例や法令等に留意する必要があると考えられます。
この原稿では、小規模な会社において、労働者を解雇する場合を前提に記載をします。
3 解雇が問題となる類型
(1)ここでは、解雇が問題となる類型をいくつかとりあげます。
もっとも、解雇が問題となる類型は、ここに記載した類型に限られるものではなく、また、各類型についても、個別の事案において、数多くの裁判例があります。また、ここでは、普通解雇、懲戒解雇の類型について、区別することなく、記載します。
ここでは、各類型について、詳細を取り上げることはせず、各類型について、簡単に触れるにとどめます。個別の事案については、弁護士にご相談ください。
また、懲戒処分として、懲戒解雇をする場合には、懲戒事由と懲戒の手続等をあらかじめ就業規則において定めておく必要があると考えられます。
(2)病気や怪我のため労務の提供ができない場合
病気、怪我などのため、労務の提供が不能である場合、解雇が問題になります。
なお、私傷病休職制度がある場合には、休職期間中の解雇は、原則として、できないものと考えられます。休職期間が終了しても、なお、労務の提供ができない場合に、解雇を検討することが多いと思います。
(3)能力不足、勤務成績の不良
能力不足、勤務成績の不良を理由とする解雇については、通常、能力不足や勤務不良の程度が著しい場合に限られるものと考えられます。また、使用者側において、教育、指導による労働能力の向上や配置転換等による解雇を回避する努力が必要とされる場合が多いと考えられます。
(4)窃盗、横領
例えば、使用者の売上金を窃盗、横領した場合、解雇が問題となる場合があります。
(5)パワハラ、セクハラ
他の従業員に対して、パワハラ、セクハラなどの行為があった場合、解雇が問題になる場合があります。
(6)私生活上の非行
私生活上の非行であっても、懲戒処分の対象になる場合があると考えられます。
(7)経歴詐称
重要な経歴を詐称していた場合には、解雇が問題となる場合があります。
3 整理解雇
ここでは、小規模な会社を前提としていますので、整理解雇については、詳しくは触れません。
整理解雇について
①人員整理の必要性
②解雇回避努力
③被解雇者の選定の合理性
④労働者側との協議・説明
の4つの要件あるいは要素をもとに、判断がされると考えられます。
4 解雇が無効となったときのリスク
労働者の立場からすれば、使用者から解雇されたものの、解雇の効力を争う意向の場合、解雇が無効であることを理由として、労働審判をしたり、訴訟をすることが考えられます。
解雇が無効となれば、解雇通知を労働者が受け取った後も雇用関係は継続していることとなり、使用者は、原則として、労働者が実際に仕事をしていないにもかかわらず、賃金の支払義務が生じることになると考えられます。
使用者にとっては、労働者から、労働審判や訴訟を提起され、使用者側の言い分が認められない場合、未払い賃金の支払いなどのリスクがあることに留意する必要があると思います。
5 従業員の解雇に関する法律問題は、弁護士までご相談ください。
労働者との間の紛争に備えるため、事前にその会社の実情にあった就業規則を作成しておくことをおすすめいたします。
また、従業員の非違行為があった場合には、その非違行為が解雇事由に該当しない場合でも、その都度必要な処分をするなど、非違行為を放置しないことも重要であると思います。 また、解雇をするには、解雇事由がある場合であっても、従業員に十分に弁明の機会を与えるなど、手続きの適法性にも十分に配慮する必要があります。従業員の解雇に関する法律問題は、弁護士までご相談ください。