1 はじめに
取締役は、どのような場合に、会社に対し、責任を負うのでしょうか。
また、会社が倒産をした場合、会社の取締役は、債権者に対して責任を負うのでしょうか。
会社が倒産をしたからといって、会社の取締役が、債権者に対し、当然に責任を負うものではありません。
会社法は、取締役の会社に対する責任、取締役の第三者に対する責任の規定をおいています。
2 取締役の義務
①善良なる管理者の注意義務
会社法は、株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う旨規定しています。
民法644条は、受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う旨規定しています。
このように、株式会社の取締役は、善良なる管理者の注意義務を負います。
②忠実義務
会社法は、取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない旨規定しています。
このように、株式会社の取締役は、忠実義務を負います。
③善良なる管理者の注意義務と忠実義務の関係
最高裁判所の裁判例は、忠実義務は、善良なる管理者の注意義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまるのであって、善良なる管理者の注意義務とは別個の、高度な注意義務を規定したものとは解することができない旨判示しています。
④経営判断原則
取締役は、日々経営判断をしています。その経営判断が、結果的に失敗をすれば、会社に損害が生じる場合があります。逆に、成功すれば、会社に大きな利益をもたらす可能性もあります。
経営には、常にリスクが伴うものであり、失敗をした場合に、常に、取締役に責任が生じるのであれば、結果責任になりかねず、経営判断が萎縮しかねません。
経営判断原則とは、一般には、取締役の経営判断当時の状況に照らして、当該経営判断の前提となった事実の認識(情報収集・調査・分析・検討)に不注意な誤りはなかったかどうか、事実の認識に基づく意思決定の過程または内容において通常の取締役として著しく不合理なところがなかったかどうかという観点から審査し、そのような誤りや著しい不合理がなければ、当該経営判断は、取締役としての善良なる管理者としての注意義務に違反するものではないとするものです。
⑤取締役の監視義務
経営判断を行った取締役については、上記の経営判断原則が問題になります。
取締役会設置会社においては、取締役会の構成員である一人一人の取締役は、他の取締役の職務の執行を監視・監督する義務を負っていると考えられます。
例えば、他の取締役が法令に違反する行為を行うことを是正できなかった場合には、是正できなかった取締役には、善良なる管理者としての注意義務が認められる可能性があります。
最高裁判所の裁判例では、「株式会社の取締役会は、会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有するものと解すべきである。」旨判示したものがあります。
少なくとも、小規模な会社では、上記裁判例はあてはまると考えられ、取締役会の構成員である一人一人の取締役は、代表取締役の職務一般について、取締役会に上程されていない事項についても、監視・監督義務を負うと考えられます。
④内部統制システム構築義務
規模が大きな会社になると、会社の事業活動の範囲が広く、財務、人事、営業、法務など取締役としての担当業務は高度に専門化されてきます。
そうすると、自己の担当する分野以外の分野において、代表取締役の職務の執行を監督することには大きな困難を伴います。
そこで、取締役は、会社の事業規模や特性などに応じて適切にリスクを管理できるような体制を構築する義務を負うと考えられます。
また、会社法は、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社と大会社である監査役設置会社について、内部統制システムに関する取締役会決議を義務づけています。
3 取締役の第三者に対する責任
会社法は、株式会社の取締役が、その職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、当該取締役は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う旨規定しています。
また、会社法は、株式会社の取締役が、計算書類等の重要な書類に記載すべき事項について虚偽の記載などを行ったときは、取締役が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明しない限り、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う旨規定しています。
4 まとめ
取締役の義務、責任は、多岐にわたり、ここで全てを説明することはできません。
会社の取締役として、どのような責任を有するか、理解しておくことは重要なことだと思います。
そのうえで、法的責任を問われないように、日々の業務にあたる必要があると思います。
会社経営、取締役の法的な義務について、弁護士までご相談ください。